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水戸地方裁判所下妻支部 昭和34年(ヒ)4号 決定 1959年10月12日

申請人 坂入隆二

被申請人 株式会社東陽相互銀行

主文

申請人の申請を却下する。

理由

本件申請の要旨は「申請人は六ケ月前から引続き被申請会社の発行済株式十万株の百分の三にあたる五千株の株式を有する株主であるところ、昭和三十四年八月三十一日、取締役松岡竜雄、同渡辺貞一郎、同萩谷徳一、同加藤俊介、同藤原貞三、監査役青木源吉の解任並びに後任取締役及び監査役選任の件を会議の目的たる事項とする臨時株主総会の招集を被申請会社の代表取締役職務代行者に対し請求した。しかるに右代行者は遅滞なく総会招集の手続をしないから申請人は商法第二三七条第二項により裁判所に対し総会招集の許可を求める」というにある。

そこで本申請の当否について考えて見ると、申請人が提出した疏甲第三号証(株式所有証明書)同第一号証(臨時株主総会招集請求書)同第二号証の二(回答書)及び本申請書添付の被申請会社の登記簿抄本によれば申請人が六ケ月前から引続き被申請会社の発行済株式総数の百分の三以上に当る株式を有する株主であること並びに昭和三十四年八月三十一日申請人主張の如き臨時株主総会招集請求書が被申請会社の代表取締役職務代行者に提出されたが、被申請会社では右請求の日から四週間近く経過した同年九月二十六日に至つても総会招集の手続を取らなかつた事実が認められる。右事実によれば申請人の適式の請求にも拘らず被申請会社は遅滞なく総会招集の手続を為さなかつたものというべく、商法第二三七条第二項に定める形式的要件は具備されているものと認めざるを得ない。

しかしながら裁判所は申請の形式的条件が具つている場合であつてもその請求の正当性の有無について審査し得るものと解すべきところ当裁判所に顕著な事実によれば、申請人は申請外塙光男と共同して昭和三十三年十二月二十六日当裁判所に対し、本件臨時株主総会招集の目的として解任を求めている取締役、監査役等が選任された同年十月二十二日開催の第六十三回定時株主総会の決議の無効確認を求める訴を提起し、同年(ワ)第一五〇号事件として当裁判所に係属中であり、更に申請人は昭和三十四年七月三日右訴を本案として前記総会で選任された取締役全員の職務執行停止並びに代行者選任の仮処分を申請し、当裁判所は同年(ヨ)第二八号事件として申請人の右申請を認容し、同年七月九日右取締役等の職務の執行を停止し、現在被申請会社は当裁判所が選任した取締役職務代行者四名によつて業務の運営が行われている。しからば申請人は一方に於て今回解任を求めている取締役、監査役等の選任決議は無効であると訴を以て主張し、その就任の事実を争いながら、他方において右取締役、監査役等の選任決議を有効としてその就任の事実を承認することを前提として為されるべき解任の決議を求めるが如き論理的矛盾を冒しているものというべきである。のみならず申請人が本件臨時株主総会招集請求書で述べているが如き被申請会社の業務運営及び財産管理上適正ならざる行為が行われる危険性は、前記の如く取締役全員の職務の執行が停止され、裁判所の選任した職務代行者が置かれている現在では一応消滅しているものと認めるべく、前記選任決議の効力を争う訴訟の確定前に右取締役、監査役等の解任を求める差し迫つた必要性は申請人には存しないといわなければならない。

そうすると、現在の争いの上に更に紛争を重ねる結果を招くが如き申請人の本件申請は前記の如く申請人側にその申請の必要性が欠けている場合にはこれを少数株主権の濫用と認めるべきであるから本請求にはその正当性がないものとしてこれを却下すべきである。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 黒羽善四郎 亀下喜太郎 海老原震一)

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